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QCM-Dでタンパク質の吸着と凝集を理解する

医薬品開発における大きな課題の一つに、タンパク質の凝集があります。凝集体は医薬品の品質に悪影響を与えるのみならず、安全性にも影響を及ぼす可能性があります。最新の研究¹では、油水界面でのタンパク質の吸着と凝集の関係をより深く理解できる結果が示されています。この結果から導かれる新しい知見は治療製剤の設計に応用できる可能性があり、Biolin Scientific社のQCM-Dによる分析も研究結果を得るのに重要な役割を果たしました。

この成果を応用発展させることで、より安定した治療用製剤の設計することが可能であり、設計指針を得るための手法として、QCM-Dによる解析がまさにパズルを解くが如く、研究者の悩みを解決するツールとなりうるのです。

目次[非表示]

  1. 1.プレフィルドシリンジのモノクローナル抗体と表面の相互作用
  2. 2.モノクローナル抗体の油水界面での吸着・凝集の分析
  3. 3.QCM-Dで吸着挙動を分析し、吸着質量を測定する
  4. 4.結果と考察
  5. 5.まとめ
  6. 6.参照文献


プレフィルドシリンジのモノクローナル抗体と表面の相互作用

治療用タンパク質を保存・投与する手段として一般的に事前に薬剤を充填したプレフィルドシリンジを用いる方法がよく知られています。プレフィルドシリンジは、シリンジ内の薬剤の使用を簡便にするため、内面が潤滑剤であるシリコーンオイルでコーティングされています。シリンジ内に保存された治療用タンパク質は、この疎水性の表面と相互作用することで吸着し、このことが凝集の原因とされています。


モノクローナル抗体の油水界面での吸着・凝集の分析

シリコーンオイルでコーティングされた表面とタンパク質の相互作用、またそれがタンパク質の凝集とどのように関連しているのかをより深く研究するために、研究グループは、モノクローナル抗体(mAb)¹の表面活性を分析することにしました。モノクローナル抗体はさまざまな病気の治療に用いられるタンパク質ベースの治療薬において主流として分類される薬剤材料です。本研究¹では、薬学的に関連性があり、且つ一般的に使用されている2種類の界面活性剤が、調査対象のmAbの吸着および凝集作用を低下させる効果があるかどうかについても分析致しました。

 


QCM-Dで吸着挙動を分析し、吸着質量を測定する

今回の解析では全体像を把握したうえで、mAbの表面活性と凝集をより深く理解するために、いくつか補完的な分析方法を用いました¹。2種類のmAb(mAb1、mAb2)、2種類の界面活性剤(ポロクサマー188とポリソルベート20)、mAb + 界面活性剤の混合物試料と、模擬表面としてPDMS被覆センサーを用い、相互作用の結果としての表面への質量吸着の分析にはBiolin Scientific社製のQCM-D装置QSenseシリーズを使用し、ナノスケールで経時的な質量変化を追跡し吸着量を測定しました。




Fig.1: QCM-Dによって測定された模擬センサー表面への取り込み質量(吸着量)。A) mAb1とmAb2の質量取り込み量の比較。B) およびC) mAb1、界面活性剤ポロクサマー(P188)およびポリソルベート(PS20)、ならびにmAb1 + 界面活性剤の混合物の比較。


結果と考察

QCM-Dでの分析により、mAb、界面活性剤、およびmAb+界面活性剤混合物の界面吸着とセンサー表面への取り込み質量について、いくつかの知見が得られました¹。例えば、Fig.1のQCM-Dデータによると

・mAb1は、mAb2よりも多く吸着した(Fig.1A)

・初期のmAbの吸着挙動は急速な立ち上がりをみせたが、その後2つのmAbは各々異なる値に達したところで飽和挙動を示した(Fig.1A)

・検討した条件においては、mAbの吸着は基本的に不可逆的な反応を示した(Fig.1A)

・しかし、界面活性剤の吸着については、部分的に可逆的であった(Fig.1B-C)

・mAb1+界面活性剤の混合物の1つでは、mAbと界面活性剤が界面で共吸着していたが、他のmAb1+界面活性剤の混合物では、界面活性剤の方が支配的だった(Fig.1B-C)


QCM-Dの分析から得られた知見、及び補完的な特性評価から得られた情報を組み合わせることで、本研究グループは、mAbの油-水界面への吸着と凝集には直接的な関係があると結論づけることができました。また、界面に吸着する界面活性剤が、mAbの凝集を低下させることもわかりました。


まとめ

プレフィルドシリンジ内のタンパク質の凝集は、医薬品開発での大きな課題の一つです。今回ご紹介した最近の研究¹では、吸収と凝集を関連付ける結果が示されており、より安定した治療溶液の処方につながる情報となるでしょう。本研究ではBiolin Sceintific社製のQCM-D技術を用いて相互作用を分析することで、界面における吸着挙動の特性を明らかにし、この情報はまさに研究におけるパズルを解くことに貢献致しました。


参照文献

1. Aadithya Kannan, Ian C. Shieh, Patrick G. Negulescu, Vineeth Chandran Suja, and Gerald G. Fuller; Adsorption and Aggregation of Monoclonal Antibodies at Silicone Oil-Water Interfaces; Mol. Pharmaceutics 2021, 18, 4, 1656-1665




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