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架橋から崩壊まで~ポリマーブラシをQCM-Dで解明する

様々な構造を持つポリマーや高分子電解質は、多くの用途で使用されています。その際には周囲の環境との相互作用を促進するために界面特性を調整する必要があります。

ここでは、ポリマー層の架橋結合と崩壊についてどのように評価ができるかについて説明していきたいと思います。


水和膜の水の放出および架橋結合作用をモニターする

上記で述べた様なポリマー層の界面特性を任意の望ましい状態になる様制御するためには、水和の度合い、水和状態から崩壊または架橋状態への変化、あるいはその逆など、構造変化についての挙動を理解することが重要になります(図1)。ポリマーブラシやその他の薄膜の膨潤・崩壊は、QCM-Dで特性評価することが可能で、水の取り込みや放出を質量変化として感知することができます。


図1:QCM-D センサー表面上の厚い水和ポリマー層が水を放出し、薄膜へと構造変化する様子

     

ポリマーブラシの崩壊と架橋結合の例

例として、キトサンでできたポリマーブラシの水和状態と脱水状態の変化を見てみましょう。低いpHではブラシは水和状態になり、高いpHでは脱水状態になります。また、ブラシの架橋にアニオンを用いることも可能です。

まず、QCM-Dセンサーにポリマーをコーティングします。次に、キトサンポリマーブラシ層をpHと対アニオンの種類が異なる溶液に晒し、膜厚の変化を観察します。

その結果、図2に示すようにpHと対アニオンを変化させたときに、ポリマーの厚みが膨潤と崩壊のプロセスを経て変化していくことがわかります。また、クエン酸アニオンが酢酸アニオンに置き換わると(同じpH条件において。図2下の模式図に示す2段階目から3段階目への変化の様子を参照下さい)、イオン架橋が形成され、ブラシ層の崩壊が起こることも興味深い結果です。




 図2:(上) 異なる溶液pHと対イオンに晒されたときのキトサンブラシ層の厚みの変化  (下) 各々のpH条件と対イオンの種類によって変化するキトサンブラシ層の構造模式図


おわりに

ポリマーブラシ、多層膜、ハイドロゲル(架橋結合したポリマーネットワーク)は、界面での分子の構造に応じて水和し、粘弾性を示します。この構造変化は、最終的な界面特性に大きな影響を与えます。例えばタンパク質の吸着やバクテリアの付着防止など、周囲との相互作用に影響を与えることになります。ポリマー層の構造変化は、QCM-Dを用いて観察することができ、水和状態と非水和状態の間のポリマーブラシの変化を簡単に検出することも可能です。


参考文献

1. H-S Lee, et al., J. Mater. Chem., 22, 19605, 2012

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