QCM-Dデータから温度変化の影響を排除する4つの方法
QCM-Dの測定において、データの信頼性と再現性を維持するためには、温度安定性が重要であることは言うまでもありません。ここでは、温度安定性が原因でQCM-Dデータに現れてしまう潜在的なエラー(アーチファクト)を如何に排除するかについて、それぞれの要因とともに4つの方法を提言したいと思います。
温度安定性を実現するために取り組むべき重要な要素
QCM-D測定において、温度安定性は非常に重要です。温度変化が一定の範囲内に制御されていないと、QCM-Dの信号にも予期しないノイズという形で影響を与えるため、データの解釈が難しくなってしまいます。しかしながら、温度によるアーチファクトについてはユーザ側で事前に対策し防ぐ方法が用意されており、外的要因と内的要因のそれぞれに対する防止策を組み合わせることで温度に起因するドリフトを抑止することが可能です。つまり、周囲環境の温度変化を最小限に抑え、避けられないレベルの一定水準の温度変化については装置側で補正が必要になります。
私たちはQCM-Dデータの温度に起因するアーチファクトを回避するために必要な対策アクションとして以下の4つの方法について提案したいと思います。
1) 基本仕様と性能の確認
ユーザの望む温度安定性が実現できるかどうかについて、まず確認すべきはお使いのQCM-D装置の基本仕様を知ること、つまり信頼性の高い温度制御システムを備えているかどうかを確認することです。最終的に測定の安定性と再現性についてユーザの望むレベルと、お使いの装置の仕様とが乖離していることのない様、装置性能を正確に把握することを第一のチェックポイントとして提言致します。なおBiolin Scientific社のQSenseシリーズのフローモジュール部の温度制御性能は15〜65℃の範囲において、安定性±0.02 Kとなっております(※QSense Explorerの仕様となります。詳細はマニュアルを参照下さい)。
2)周囲の温度変化を避ける
そもそも周囲環境の温度が安定的に維持されているのであれば、装置の温度制御機構は変動を補正する必要がなくなります。また、どんなに優れた制御機構であっても、周囲温度の極端な変化を完全に補正することはできません。したがって、周囲の温度はできるだけ一定に保つようにしてください。当該目的のため、装置稼働時には本体部の周囲の空気循環が適切であること(動作時に大きな熱を発生することがあり、冷却する必要があります)を確認し、直射日光や気流がセンサーやフローモジュールに直接当たらないように配置するなどの処置を行ってください。
3) 装置本体の温度を安定させる
実験室内の温度を安定させたら、次は、測定を開始する前にフロー部の温度安定性を確認しましょう。あらかじめフロー部(チャンバー内)の温度調整機構(ペルチェ)を起動させて、サンプル溶液を導入する前に温度一定であるかどうかをソフトウェア上等で確認してください。
4)サンプル溶液の温度の平衡化
温度変化に起因するアーチファクトを最小限に抑えるための最後の手順は、フロー部に到達するサンプル溶液の温度を事前に考慮し、一定に保つことです。特に、冷蔵庫などで保管されていたサンプル液を導入する等、溶液の温度が測定部の温度と大きく異なる場合は、サンプルの温度は必ず測定温度近傍に平衡化させて下さい。平衡前の液温が大きく異なるサンプル液をそのままフロー部に導入はしないでください。ノイズ発生等、様々なエラーを引き起こす要因となってしまいます。
おわりに
温度変化は、QCM-Dの信号にアーチファクトを引き起こします。信頼性と再現性のある測定結果を実現するためには,温度安定性が不可欠です。周囲環境温度を一定に保ち、サンプル溶液の液温は事前に平衡化し、フロー部のペルチェでサンプル導入前に温度安定性を確認するなど、実験時には温度変化による信号ドリフトなど測定データに影響を及ぼすアーチファクトはなるべく避ける様に事前準備を怠らず行ってください。
※温度変動がQCM-Dデータにおよぼす影響については、今後のブログテーマにて数値を上げ詳細を補足したいと考えております。