QCM-Dでタンパク質のガラスとプラスチック表面への吸着量を比較する
タンパク質は、疎水性の相互作用によって固体表面に受動的に吸着する傾向がありますが、実際にどのくらいの量が吸着するかについては、タンパク質自体の材料特性、周囲の環境条件、吸着表面の材質など多くの要因に左右されるため一概には見積もることができず、評価が難しいところです。では、これらの様々な条件を考慮した上で、吸着量を測定する有効な手段はないのでしょうか。私たちは、タンパク質の表面吸着量を効率的且つ定量的に評価する推奨ソリューションとして、QCM-D装置を応用する手法について以下具体的にご紹介させて頂きます。
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QCM-Dでタンパク質の吸着量を定量評価する
吸着量の評価に用いるBiolin Scientific社製のQCM-D技術応用解析装置QSense は、相互作用を観察し、吸着表面での質量変化をモニターする機能を持っております。QSense には時間軸に対して質量変化を連続的に測定する機能があり、対象表面へのタンパク質の吸着量を簡単に測定することができます。また、最表面の素材を任意の物質に変更したり、あるいはタンパク質の濃度や緩衝液のpH、イオン強度といった条件を変化させながら、異なる条件での取り込み量の違いを比較評価することが可能です。
QCM-Dで各種条件の違いによるタンパク質の吸着量への影響を評価する
タンパク質と反応する最表面の材料の違いによる影響
吸着するタンパク質の量には、表面の材質が大きく影響します。特に興味深いのは、プラスチック・ポリマー系およびガラス系の材料で、これら2つの材料はそれぞれタンパク質工学を応用したバイオテクノロジー技術(protein biotechnology)の応用分野において今日既に継続的に使用されています。例えば、シリンジ、濃縮装置のフィルター、生化学分野で用いられる容器類などは、すべてガラスまたはプラスチック・ポリマーを基本素材として構成されています。では、例えばガラスとプラスチック・ポリマーの代表例として、ホウケイ酸ガラス素材やフッ化ポリビニリデン樹脂(PVDF)の模擬表面と任意のタンパク質とを吸着させ評価するモデルを構築したとき、実際の吸着量がそれぞれどのくらいかを評価することができるでしょうか?
タンパク質濃度の違いによる影響
表面素材以外にも吸着量の増減に影響を与える可能性のあるもう1つの要素としては、吸着表面と反応するタンパク質の溶液濃度の違いを考慮する必要があります。このことを理解するために1つ身近な実例を挙げると、例えば大規模な組換えタンパク質の生産現場では、通常、高濃度のタンパク質溶液が素材として使用されています。では、モデルとなるタンパク質の濃度条件を変えて2つの異なる表面と反応させた場合、濃度違いによる表面への吸着量の違いを明確に観察することはできるでしょうか?
QCM-Dによる測定結果と考察~表面材料と濃度条件の影響を比較してみる
では実際にQSenseを用いて、これらの疑問に対して答えを得るべく実験系の構築に取り組み、低濃度と高濃度のタンパク質溶液(低濃度条件として1 mg/ml、高濃度条件としては40 mg/mlに濃度を調製)を用いて、ホウケイ酸とPVDF、すなわちガラスとプラスチック・ポリマー素材へのモデル材料として選んだタンパク質であるリゾチームの吸着量を測定し、比較評価しました。
以下に示す結果(Fig.1)から、プラスチック表面に比べてガラス表面では表面吸着量が2.5倍になっていることがわかります。また、タンパク質濃度が高い場合、低い場合に比べて吸着量が2倍以上になっていることもわかります。
Fig.1: 2種類の異なる濃度のタンパク質を、ガラスとプラスチック表面へ送液反応させた後に取り込まれた量(uptake)を質量(ng/cm2)に換算して評価した。表面吸着量を比較すると、高濃度タンパク質の方が低濃度よりも吸着量が多かった。また濃度の違いに関わらず、プラスチック材料(PVDF)よりもガラス材料(ホウケイ酸)の方が表面に多くのタンパク質を吸着することが判明した。
まとめと結論
一般的に固体表面に吸着するタンパク質の量の増減は多くの条件や要素に左右されるため、定量的に測定評価し、その要因について妥当な考察を行うことも困難です。しかし、本ブログにてご紹介させて頂いたQCM-Dの様なリアルタイムでタンパク質と表面間の挙動を観察する手法を用いて、スクリーニング測定を実施すれば、多くの研究現場や産業応用分野において貴重なタンパク質素材の損失につながる要因を特定し最小化することが可能になり、例えばタンパク質の材料製造工程や医療や食品等の各関連分野におけるプロセス管理等に応用することで、現実の社会や産業要請に応えられる付加価値の高いソリューションになるものと考えております。