Qsense アルテック株式会社

ブログ

細胞接着・細胞剥離の解析

最終更新日:2026.01.09 QCM-D

細胞が様々な材料界面に接着・剥離する際の反応を正しく解析することは、基礎生物学やバイオファウリングプロセスの分析、そして様々な生体材料応用において重要です。

ここでは、細胞接着・細胞剥離の解析方法として用いられている様々な方法と、QCM-D技術の活用についてご紹介いたします。

細胞接着・細胞剥離を解析する方法

細胞間および細胞成分と物質表面間の相互作用は、医療用インプラントやバイオセンシング用途の材料設計などにおいて特に重要です。
具体的なケースとして、細胞接着を抑制する材料界面の設計や、逆に特定の細胞種の選択的接着を促進するなど、様々な相互作用について研究が進められています

細胞接着・細胞剝離の解析は、作用の種類や解析の目的によってさまざまな方法が用いられます。
例として、下記のような方法があります。

染色による解析

染色による解析は、細胞の接着状態を視覚的に確認する基本的な方法です。
細胞が材料表面にどの程度接着しているか、あるいは剥離しているかを染色による反応で評価します。

蛍光顕微鏡を用いた解析

蛍光顕微鏡による解析は、特定の細胞構造や分子を蛍光色素で可視化し、接着状態を詳細に観察する方法です。
対象を蛍光標識することで、細胞の形態変化や接着面での分布を確認できます。

反射干渉法による解析

反射干渉法による解析は、細胞と基板表面との距離や接触状態を光の干渉を利用して可視化する方法です。
細胞膜と基板の間で生じる反射光の干渉パターンを解析することで、接着部位や剥離の進行を評価できます。

表面プラズモン共鳴を用いた解析(MP-SPR法)

表面プラズモン共鳴(SPR)の一種であるMP-SPR法による解析は、非常に微小な分子の細胞表面への結合や、細胞表面の応答の様子をリアルタイムに観察できる方法です。また細胞内への浸透や、内在化の判定にも応用できます。
金属薄膜上で生じる表面プラズモン共鳴の変化を利用し、細胞と材料表面との特異的な相互作用を高感度で検出します。また細胞外小胞(Extracellular Vesicle, EV)の様な数十ナノメートルのスケールで放出される非常に微小な小胞(エクソソーム)の検出にも優れた手法です。

MP-SPR法で分析できる機器はこちら

QCM-Dによる解析

QCM-Dによる解析は、細胞の接着や剥離に伴う質量変化を高感度に測定する方法であり、特に周囲環境の水を取り込んだ水和状態(ソフトマター)での判定や構造評価に役立つ手法です。

細胞が接着する際には、培養下であれば細胞外マトリックス(ECM)やその代替となる足場材の形成から接着が進んでいきます。QCM-Dでは、その初期挙動として足場材の接着を測定可能です。

水晶振動子の共振周波数とエネルギー散逸の変化から、足場材を介して細胞がどの程度表面に付着しているかを定量的に評価できます。
またこのときエネルギー散逸の大小により、足場材の水和状態(リジッド or ソフト)や粘弾性などの構造解析を通じて、周囲の水分子の影響を見積もることが可能です。
非破壊的かつリアルタイムで測定できるため、細胞接着・細胞剥離プロセスの可視化にも有効です。

細胞接着・細胞剥離の解析にQCM-Dが有効な理由

他の測定方法に比較したQCM-D技術の強みとして、下記が挙げられます。

  • 幅広い有機・無機材料によるセンサー表面の修飾に対応し、モデル実験や解析が可能
  • 水中における細胞フロー環境で動作可能で、緻密かつ正確に動的な反応や変化を観察することが可能
  • 接着細胞の足場材の粘弾性特性を評価することで、水和状態を通じて周囲の水の働きを見積もる事が可能

つまりQCM-Dを活用することで、細胞接着・細胞剥離の反応前後の比較に留まらず、「変化を追いかけて測定する」ことができます。

QCM-D活用例:様々な細胞タイプの吸着速度の研究

では、実際にQCM-Dを活用して、様々な細胞タイプの吸着速度における研究をご紹介いたします。

研究の概要

表面自由エネルギーの異なる金と二酸化ケイ素表面への、モデル真核細胞(S. cerevisiae:酵母)とモデル原核細胞(E. coli:大腸菌)の吸着速度論をQCM-D法で研究しました。
この実験は、生理学的に関連する塩濃度のリン酸緩衝生理食塩水中の異なる細胞濃度で実施しています。
手順は、最初に流動条件下で細胞接着を調べ、流動を停止して、より長期間にわたる静的条件下での細胞接着安定性をさらに調べます。(※これらはすべて同じ測定実行内で行われました。)

また結果分析では、共鳴周波数とエネルギー散逸シフトの時間非依存性プロットも作成し、接着細胞の細胞骨格構造の変化を分析します。

さらに同様の実験を、より生物学的に複雑な真核生物モデルとして、ヒト胎児腎(HEK)細胞でも行いました。

研究の結果

結果として、酵母細胞は金表面よりも二酸化ケイ素表面に強く吸着することを示しました。
興味深いことに、どちらの場合も長期培養中に細胞の剥離が容易に起こり、二酸化ケイ素の方が金よりも剥離の程度がより大きかったことが分かります。

また、もう一つの真核細胞サンプルとして用いたHEK細胞でも、同様の傾向が得られました。

対照的に、大腸菌細胞は金および二酸化ケイ素両方の表面に強く吸着しました。
大腸菌細胞の全体的な接着程度は、金表面の方が二酸化ケイ素表面よりも大きく、長期培養後でも細胞剥離はわずかでした。

このように、周波数-散逸プロットを分析することで、細胞の接着および剥離プロセスのさまざまな段階を識別することもできます。

左側が金表面、右側が二酸化ケイ素表面における、酵母細胞および大腸菌細胞の付着測定結果。

研究例から分かったQCM-Dの強み

特定の固体表面への細胞接着の分析は、他にも様々な解析手法がありますが、QCM-Dを用いたアプローチには、下記のような利点がありました。

まずは、光学的に透明または不透明な様々な表面コーティングに対応し、細胞標識を必要としないことが挙げられます。
この強みは、この研究おける酵母、細菌、ヒト細胞を同一のプロトコルを用いて研究できたという点で特に有用でした。

またもう一つの利点として、流動条件を調整しながら、十分に制御された環境下で長期間にわたり細胞接着・細胞剥離をモニタリングできることがあります。
結果のグラフを見ても分かる通り、時間経過による細胞剥離の様子を時間軸とともに追うことができました。

まとめ

材料表面のバイオファウリングは、生物学的認識プロセスの重要な部分であり、生体適合性レベルにも関わる要素です。例えば、非特異的な細胞接着に抵抗する防汚コーティングの開発にも重要です。

QCM-D技術は、例えごくわずかなファウリングであっても、その程度を定量的に高感度に検出できます。
また、脂質膜やタンパク質コーティングなどの異なる材料表面と細胞との相互作用もモニタリング可能です。

このようにQCM-Dは、無機表面に関連する細胞材料相互作用の研究、組織工学や再生医療への応用にも活用できる可能性があります。
QCM-D技術の活用について、測定のご相談や解決したいお悩みなど、ぜひお気軽にお問い合わせください。

編集者注
この記事は、Biolin Scientific社のブログ投稿を原典とし、編集しています。

Using QCM-D: Time-Resolved Analysis of Cell Adhesion and Detachment

Biolin Scientific社の当ブログ投稿は、韓国の成均館大学化学工学部およびバイオメディカル融合研究所の准教授であり、トランスレーショナルナノバイオサイエンス研究センター所長でもあるジョシュア A. ジャックマン教授との共同執筆です。

参考文献
Yongabi D, Khorshid M, Gennaro A, Jooken S, Duwé S, Deschaume O, Losada-Pérez P, Dedecker P, Bartic C, Wübbenhorst M, Wagner P. QCM-D study of time-resolved cell adhesion and detachment: Effect of surface free energy on eukaryotes and prokaryotes. ACS Applied Materials & Interfaces. 2020 Mar 30;12(16):18258-72