QCM-DとSPRの違いとは?
はじめに
水晶振動子マイクロバランス(QCM-D)と表面プラズモン共鳴(SPR)のどちらの技術も固体表面-液中物質間の相互作用分析に用いられ、特異的相互作用、分子結合、吸着現象をモニターしています。両者には多くの共通点がありますが、実験能力と取得可能な情報には大きな違いがあります。本ブログでは、主な相違点を明らかにし、それぞれの手法を用いた使用例を簡易的にご紹介します。
QCM-DとSPR技術の相違点と類似点
それぞれの技術と測定原理から説明すると、QCM(QCM-D、QCM-I、QCM-Aなどの拡張版を含む)は音響振動を、SPRは光学技術(表面プラズモン共鳴による誘電率の変化)を応用した検出方法です(表1)。簡単に言うと、QCMは振動する水晶の共振周波数の変化fを測定し、SPR(Surface Plasmon Resonance, 表面プラズモン共鳴)は共鳴角ϴの変化を測定しております。水晶振動子の共振周波数は質量変化に敏感で、SPR角度は屈折率変化に敏感です。fとϴに加えて、それぞれの技術によって追加のパラメータを計測することが可能であり、抽出できる情報量もそれぞれ拡大します。
表1.QSense QCM-DとSPR技術による測定パラメータの比較。
QCMサプライヤーが提供する各々異なるユニークな計測パラメータを、如何に取り込みどのように解析するかによって、QCM技術から得られる情報は、表面における経時的な質量変化に関する単なる定性的な情報から、高時間分解能での質量、厚さ、 粘弾性特性に関する定量的な解析結果まで広範囲に渡ります。一方で、従来型のSPR装置が提供する結果は、表面/表面近傍の屈折率変化を応用した特定の生体分子の結合・解離のみを観察するといった限定的・相対的な情報に止まりますが、複数のパラメータを取得可能なMP-SPRを用いれば屈折率、厚さ、密度、表面被覆率に関する定量的な情報の解析ができるなど、QCMおよびSPRを応用した応用解析は実に多岐に渡り、応用分野も様々です。
おわりに
QCM-DとSPRは、センシング表面への感度が非常に高い2つの代表的なリアルタイム測定技術であり、その応用分野は時に重複しているため、類似しているように見えるかもしれません。両者には共通点もございますが、実験の要件によっては、両者の違いが決定的な意味を持つこともございます。どちらも界面近傍で起きる物質間・分子間相互作用の解析に有用なツールであり、それぞれに独自の強みを持ちます。QCM-Dでは、例えば生体分子層の水和や構造特性を理解する上で極めて重要な動的な結合水の検出を含む、質量や粘弾性・水和膜厚に関する詳細な情報を解析できるという点で優れております。一方、MP-SPRは、結合速度や親和性といったカイネティクス(Ka、KD)の解析に優れ、複数波長を用いたSPRフルカーブのフィッティング解析から屈折率変化を検出できるため、極めて高い感度を活かした界面近傍での特異的分子間相互作用のモニタリング、バルクシフトを除いた純粋な表面相互作用の抽出や、相互作用後に表面に形成された水和部分を除く乾燥膜厚の見積りといった形成被膜の物性解析において不可欠なツールとなります。これらの違いを理解することで、特定の実験ニーズに適したテクノロジーを選択することが可能です。
※アルテックではSPRのお取扱いもございます。QCM-D含め、装置選定にお悩みの際はお気軽にご相談ください!