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QCM-Dで如何に薄膜の膨潤を評価するか?

コンタクトレンズが乾くとしわが寄って形が崩れるのに、溶液に戻すと元の形に戻ることに気付いたことがありますか?天然物や人工物に関わらず多くの材料に共通するこのような特徴はいわゆる膨潤と呼ばれる振る舞いで、材料表面で起きる水の吸収・放出といった現象に起因し、また膨潤の大きさは各表面が持つ吸水や放出の能力にも依存しています。コンタクトレンズはその一例ですが、食品や化粧品の増粘剤や乳化剤、ろ過装置もすべて、材料が水和および脱水する仕組みを利用しています。研究開発においては、このような材料の膨潤プロセスを理解し解析することが非常に重要になっており、QCM-Dには界面で起きる物質間の相互作用を敏感に感知する能力がありますので、薄膜での水の取り込みと放出のプロセスを観察することで、QCM-Dを材料開発現場での最適化のためのツールとして役立てて頂くことが可能になります。


QCM-Dによる薄膜の吸水と膨潤の観察


薄膜中に取り込まれた水分量は、分子や表面の分子構造によってはその割合が膜材料に対して95%以上にも達する場合があります。例えば、表面に並行方向に吸着する細長い分子を考えてみてください(図1参照)。この分子配列では少量の水しか含んでいませんが、分子が表面に対して直立に吸着すると、より多くの水が分子に結合することになります。このとき分子の層における水和と脱水、およびこれら2つの反応状態の変化は、QCM-Dを用いてリアルタイムで観察が可能で、水の取り込みと膨潤反応は、データ上では質量の増加として検出されます。


図1.表面に並行な方向で吸着した分子(左)は、直立方向で吸着した場合(右)よりも溶媒の結合量が少なくなります


薄膜の水和・膨潤と劣化による溶解のイメージ(動画)



薄膜の膨潤例:QCM-Dででんぷん膜の膨潤反応を考察する

例として、でんぷん膜の水分吸収反応を見てみましょう。でんぷんは、例えば製紙業や可食フィルムにおいて利用され、製品の設計に重要な位置を占める構成成分です。どちらの分野でも、周囲の湿度が材料の強度と品質に大きな影響を与えてしまうことが課題となっています。例えば紙に関しては、紙材料の品質が周囲湿度の範囲で安定するよう、溶解度を低く設定する必要があります。一方、可食用の場合、材料は溶解する必要があり、溶解度は特定の周囲湿度より高く設定する必要があります。


以下の実験例では、膜の厚み変化を測定しながら、天然じゃがいも由来のでんぷん薄膜をさまざまな湿度の空気にさらした時の挙動を示します(図2)。


測定開始時の膜厚をここでは100%と設定しています。測定は湿度が11%の状態から開始されます。次に、湿度を徐々に上げていき、厚みの変化を観察します。湿度が高くなると、水和したでんぷんの膜厚は増えていきます。

特に、湿度を100%から11%に戻すと、でんぷん膜は数秒で元の厚さに戻りますので、膜厚増加が水和の影響であることがわかります。従ってこの実験の結果から、湿度の影響により薄膜の膨潤作用が起こり、膜厚にどのように影響するかが示され、さまざまな湿度条件下で材料がどのような挙動を示すかについて具体的な知見が得られました。


図2:水蒸気の取り込みと薄膜の膨潤作用の解析。湿度変化の影響による天然ジャガイモ由来のでんぷん薄膜の厚さ変化の様子



QCM-Dによる膨潤解析と様々な分野への応用


紙パルプ産業だけでなく、吸湿性材料が使用されている他の多くの分野において、蒸気の取り込みやその影響による薄膜の膨潤作用は品質を作用する重要な管理項目となっています。例えば、保存用や運搬用の薬品カプセルの材料や、耐湿性デバイス材料の設計など、周囲の湿度変化による材料特性への影響が忌避される様な分野は多々あります。また膜の膨潤作用は、例えば界面活性剤が汚れ膜の膨潤を誘発する洗浄のプロセスや、pH、温度、またはイオン強度に反応する様設計されたスマートマテリアルの開発分野などでも重要視されている現象であり、今後QCM-Dを応用した膨潤の可視化と定量分析の手法は一層注目を集めていくことでしょう。




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