QCM-Dが楽器に例えられるこれだけの理由
一般的に未知の新しい概念や、難しい技術の基本原理などは、身近なものに例えて説明するのが最適な場合があります。ここでは、QCM-Dの技術を様々な「楽器」に例えることで説明してみましょう。
QCM-Dの持つ様々な技術的な側面を「音」で理解する
QCM-Dとは、ある側面においては音響技術を利用したものであり、音波、つまり振動のエネルギーを測定することに基づいています。したがって、QCM-Dの動作原理を説明するためには、身近な事柄として楽器に例えることで、よりわかりやすくなります。
QCM-D技術の基本原理を理解するためには、以下主に3つの知っておくべき重要な概念があります。
1. 水晶の共振の状態、およびそのことが質量変化の測定にどのように相関するか
2. エネルギー散逸とは何か?およびエネルギー散逸はソフトな物質が表面に加わることによりどのような影響があるか
3. 音響(振動)分析を用いて、付着物質の持つ特性をどのように理解し決定するか
QCM-Dを楽器に例えると?
Biolin Scientific社が過去に主催したウェビナー「Basics of QCM-D」において、同社のシニアアプリケーションサイエンティストであるフレドリック・ピーターソンは、以下の楽器を例えに用いて上記3つの基本概念をそれぞれ説明しています。
1. ギター
2. 教会の鐘
3. 電子オルガン
これらの楽器がどのように動作し、周囲の環境とどのように相互作用するかをイメージしながら、フレドリックはQCM-Dの概念について次のように説明してくれました。
1)ギターの弦を振動させると、センサーの共振とハーモニクスが理解できる
水晶振動子は、振動するとギターの弦の様な挙動を示します。フレドリックの説明によると、それはまるで短くて太いギターの弦の様なものであり、ここでは水晶振動子の厚みはわずか0.3mm程度ですが、その挙動はギターと同じです。音を出す、つまり振動させるためには、センサーに電気を流します。ギターの弦のように、弦を長くすれば音は小さくなり、短くすれば音は大きくなる。QCMのセンサーも同じで、物質が表面に加わって太くなる、つまり厚みが大きくなれば音は小さくなり、除去・脱着して厚みが減る、つまり細くすれば音は大きくなる。QCMの音はMHzの領域にありますが、ギターの弦と同じ現象です。
2)教会の鐘の音に例えれば、水晶の共振の散逸と減衰の現象を理解できる
例えば何も緩衝がない状態で取り付けられている教会の鐘をそのまま叩くと、非常に長い間鳴り続けることができる、とフレドリックは述べます。しかし、例えば観光客がやってきて鳴っている最中に鐘を抱きしめてしまうと、鳴り方が弱くなり、音は早く減衰してしまいます。このとき鐘を抱きしめた観光客は、音の信号を減衰させるソフト材料のような役割を果たしていると考えることができます。そういう意味で、このとき教会の鐘は周囲の環境変化を感知することができたと考えられるのです。鐘が干渉のない空中で長時間鳴り続けている場合を水晶振動子に例えると、これはすなわち水晶の表面に何も付着材料がない、または硬い材料のみが付着していると考えられ、これらの材料との相互作用を振動で表すと、散逸が少なく、長く振動し続けられる状態であると言うことができます。つまり柔らかい材料が水晶表面に接触した場合と、観光客が鐘を抱きしめた場合は、前者はエネルギー散逸が早くなり、後者の場合は鐘が短い音でなりますが、物理的な現象としてはどちらも同義なのです。
3)電子オルガンの音色や音質の違いで、厚さの違いや素材の特性の違いを理解する
私たちは水晶振動子の共振の働きを説明するために、物理的な現象としての音波と音響を例えとして扱っているので、音波、すなわち圧力波が、水晶振動子において異なる材料特性を持つ材料を介してどのように分布するかについて説明する際に物理的公式をあてはめ、また音と材料特性の関係の理解に役立つ物理的な計算モデルを用いることで、QCM-Dの原理をよりわかりやすくお伝えすることができます、とフレドリックは述べます。例えば、QCM-Dで用いている粘弾性モデルとは、特定の粘弾性特性を持つ層の中で圧力波がどのように動くかを表しています。音、すなわち振動の様子を測定すると、このモデルを使って、その層の粘弾性特性を計算することができます。
このモデルを使って、QCM-Dを電子オルガンに例えることもできます。電子オルガンは、質の異なるさまざまな音を出すことができますが、QCM-Dも同様です。私たちは水晶振動子を使って異なるトーンを測定していますが、これは電子オルガンで異なるハーモニクスを聴いて、音の質の違いを聴き分けることに似ています。つまり、電子オルガンのキーの違い、音色の違いは、センサーの膜の厚さの違い、質量変化に対応するのです。またこれに加えて、電子オルガンではツマミの設定で音の質も変えることができます。例えば、ピアノの音からトランペットやサックスの音に変えてみる。これは、QCM-Dでの素材の質の違いと、異なるハーモニクスの振る舞いの関係を表しています。そういう意味では、QCM-Dは電子オルガンのようなものであると言うこともできるでしょう。
QCM-Dについてもっと知る
Biolin Scientific社のフレドリック・ピーターソン講演のウェビナーでは、QCM-Dの基礎知識および原理・テクノロジーを理解するための理論、何を測定・分析できるのかについて更に詳しく説明しています。下記よりBiolin Scientific社のサイトへアクセスの上、サブスクリプション登録後御覧頂くことができますのでご検討下さい。