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細胞とウイルスの結合をQCM-Dで解析する

QCM-Dは既に長年にわたってウイルスの結合反応や、相互作用の研究・分析に用いられてきました。スウェーデン・イェテボリのSahlgrenska大学病院の研究者であるGustaf Rydell博士は、QCM-Dを用いてウイルスの結合過程を観察し、ノロウイルスがどのように感染を拡大していくのかを研究しています。本ブログでは彼の研究内容をご紹介させて頂きますので、QCM-Dのウイルス研究への応用可能性について読者の皆様に少しでも感じて頂ければ幸いです。

目次[非表示]

  1. 1.ウイルスは再生・複製に細胞を必要とする
  2. 2.ウイルスの細胞への内在化~細胞皮膜に結合、内部へ侵入する
  3. 3.細胞膜への付着過程をQCM-Dで知る~感染における重要な開始点
  4. 4.QCM-Dを用いたウイルス結合の研究詳細について



ウイルスは再生・複製に細胞を必要とする

Gustaf博士はウイルスを細胞間への寄生を必須とする構造体(obligate intercellular parasite)であると定義しています。ウイルス粒子は生体外で浮遊拡散する際には長期間構造を維持できませんので、自己を複製するために生体内で寄生する宿主となるべき細胞を必要とするのです。基本的に、ウイルスの発達には2つの段階があり、1つは非常に単純な物体であるウイルス粒子の形成です。これは、タンパク質のカプシド、または脂質膜で覆われたウイルスゲノムにすぎません。ウイルス粒子単体では、何の影響もなく周りに拡散されるいわゆる死に体の状態ですが、細胞と接触することで第2段階が始まってしまいます。

第2段階では、ウイルス粒子はトロイの木馬のように細胞を騙してウイルスを細胞内に取り込みます(内在化)。そして、細胞をウイルス再生工場に変えてしまうため、細胞は新しいウイルス粒子を作り始めるのです。この感染細胞内においては、ウイルス粒子単体の状態では発見されることのない、特殊な感染性のタンパク質が多数存在し、細胞内の多くの異なる非感染性のタンパク質と相互作用する、とGustaf博士は解説します。


ウイルスの細胞への内在化~細胞皮膜に結合、内部へ侵入する

第2段階で観察されるウイルスの最初の変容は、ウイルスが細胞に付着する、つまり、ウイルスが細胞上の受容体に結合することで開始されます。Gustaf博士による、この細胞受容体のウイルス学的な定義は「ウイルスに結合し、ウイルスの細胞内部への取り込みを助ける働きをする分子」となり、ウイルス侵入へ深く関与する存在となっています。ウイルスと受容体との相互作用は、通常は多価の性質を持っているため、ウイルス粒子は細胞上の1つの受容体分子にだけ結合するのではなく、複数の受容体に結合します。また、受容体の発現は、ウイルスの「トロピズム(指向性)」にとって非常に重要です。トロピズムとは、ウイルスがどの細胞に感染することができるのかを表したものです。 つまり、ウイルスが細胞に感染するためには、受容体が細胞上で発現されていなければならないということです。

図1は、第1段階から第2段階への移行と、ウイルス粒子の内在化を示したものです。ウイルス粒子は細胞に近づき、結合します。次に、細胞膜上での横方向に拡散し、シグナル伝達を行います。そして細胞はウイルス粒子を輸送小胞に取り込みます。

図1. ウイルス粒子が細胞に取り込まれる様子を模式的に示した図。


細胞膜への付着過程をQCM-Dで知る~感染における重要な開始点

Gustaf博士の研究の多くは、ノロウイルス(冬季に発症する嘔吐症の原因となるウイルス)に焦点を当てています。ノロウイルスの興味深い点は、一部の人が感染に耐性があるように見えることであるとGustaf博士は述べます。このウイルスは、A,B,Oの血液型グループの活性炭水化物に結合しますが、例えば北欧圏においては人口比で20%程度、この炭水化物が欠損し体内に保有していない集団も存在しています。つまり、彼らにとっては一般的なノロウイルス株への感染に耐性があるということです。

図1に示したように、ウイルス感染においてカギとなる重要な開始段階は、ウイルス粒子が細胞膜に付着する時点であるということができます。Gustaf博士は、ノロウイルスがどのようにして感染を開始するのかをQCM-Dを用いて研究しており、ウイルス粒子と細胞膜の結合プロセスを検証するため、特に以下のような項目に注目しています。


・結合特異性

・限界濃度(閾値判定)

・競合比較実験

・細胞皮膜の変形


QCM-Dを用いたウイルス結合の研究詳細について


Sahlgrenska University Hospital の Gustaf Rydell博士 のQCM-D法を用いたウイルスの結合過程の研究については詳細なウェビナーがございます。

当該プレゼンテーションにおいてGustaf博士は、QCM-Dを使用して結合特異性を解析する方法や、閾値濃度を使用して結合能に関する詳細な情報を取得する方法について説明しています。また、競合実験についても解説し、多価相互作用した可能性を示唆する膜変形についての研究成果の紹介もあります。

ウェビナーはBiolin Scientific社の下記サイトにアクセスの上、サブスクリプション登録を頂ければ視聴可能となっておりますので登録のご検討を頂ければ幸いです。


Webinar: QCM-D as a tool to study the binding of viruses


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