洗浄力の評価とQCM-D
目次[非表示]
- 1.洗浄とは?
- 2.界面で何が起きているか?
- 3.洗浄力をQCM-Dで測定する!
洗浄とは?
いわゆる「洗浄」は、わたしたちの身の回りでほぼ毎日の様に起きており、身近にすぐ触れることのできる既知の化学現象です。では果たして「洗浄」とは、実際にはどのようなプロセスでどんな現象が起きているのか皆さんはご存知でしょうか?当ブログでは「洗浄」の各プロセスを追跡し、洗浄現象を科学的な観点から明らかにする手法について述べたいと思います。
界面で何が起きているか?
ここで洗浄という現象を具体的に定義してみましょう。洗浄とは汚れの膜を構成する分子が洗剤を構成する界面活性剤の働きにより、吸着していた固体表面から脱離してゆく現象であると捉えられます。このとき汚れ表面と洗剤との液中界面では何が起きているのでしょうか?いわゆる汚れを固体表面に吸着している油の膜であると仮定し、洗剤とは界面活性剤の含まれる水溶液であると仮定します。このとき洗剤である水溶液がこの油膜に触れると、界面活性剤の働きで表面吸着している油膜に洗剤水溶液が浸透を始めます。この油膜と浸透した水溶液との混合状態は、当初の油膜が薄く固着した状態と比較すると表面から浮いてまるで膨れ上がったような状態(ここでは膨潤=Swellingと呼びます)になっています。その後、膨潤状態の油膜は徐々に構成分子が分解され膜が剥がれていき、液中に溶解した状態で存在することになります。最後に水流により溶解した油分子をすべて洗い流し(すすぎ=Rinse)、対象表面から完全に除去することで洗浄工程は完結します。(例えば洗髪時のシャンプーとリンスの関係を思い出して頂ければイメージしやすいのではないでしょうか。)
洗剤の汚れへの接触 汚れ膜の膨潤 汚れ膜の表面からの脱離
洗浄力をQCM-Dで測定する!
ではここで定義した一連の洗浄のプロセスをもっと具体的な数値でモニタリングして、洗浄の効果を定量的な尺度で測ることで、洗浄力の良否を査定することはできないでしょうか?もちろん、弊社の提案するQCM-Dを活用すれば可能です。
既にご存知のとおりQCM-Dは水晶振動子の表面を任意の材料を用いた薄膜で覆い、模擬的なセンサーとして用いることで、リアルタイムにΔfとΔDを計測しながら界面の挙動を追跡することができるシステムです。そしてQCM-D用には規格で定義された油膜を表面付着させた「標準汚れセンサー」がありますので、この標準汚れに対して界面活性剤入りの液を流して模擬的に洗浄プロセスを再現した時のΔfとΔDの数値の変化はそのまま上記の膨潤→溶解→すすぎの流れに置き換えることが可能で、各プロセスにおける反応量(ΔfとΔDの基準レベル(ベースラインという、通常ゼロに設定する)からの差分変化量)と反応速度(プロセス完了までにどのくらいの時間がかかるか。上記Δf、ΔDのベースラインからの変化の開始時点と再安定する時点との時間差)を比較することで、洗剤やその構成物質である界面活性剤が及ぼす洗浄効果について数値査定を行うことが可能になります。例えばΔf、ΔDとも反応速度が速く、反応量も多い界面活性剤をもつ洗剤が市場のチャンピオン製品であるとすると、反応量は同等であるものの反応速度がチャンピオン製品と比較すると遅いものは一般的な品質の洗剤であると判断でき、また反応量が少なく且つ反応速度も遅いものは低品質品であるといった具合に、いわゆる洗浄力を具体的なパラメータで評価比較して洗剤にランキングを付けるといったことも可能になります。