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QCM-Dを用いて質量変化と厚みを測定する

QCM-Dの測定を応用して、界面に形成された分子の薄膜の質量と厚みを測定する理由や意義とは何でしょうか?1つには膜の形成・堆積と劣化のプロセスを具体的に評価できることが挙げられます。多くの材料や薄膜は動的な性質を持っており、光、温度、塩濃度、pHなどのさまざまな刺激に反応することで物理的な変化を起こします。これらの変化は、材料の質量、厚さ、構造特性に影響を与える要素となっており、膜の質量と厚みは、薄膜の生成、挙動、劣化のいずれにも深く関わるパラメータであるといえます。従ってモデル膜やコーティングの設計、特性評価、評価、最適化等のいずれの過程においても、質量と厚みという2つの重要な特性をリアルタイムでモニターすることがQCM-Dの測定においても非常に重要となります。


QCM-Dを用いた分子膜の質量および厚さの変化のモニタリング


分子の結合、吸着、脱着、凝集、多層膜の形成など、界面における相互作用の過程では、分子の膜の質量や厚さといった特性が絶えず変化しています。このような相互作用による膜の特性の継続的な変化は、リアルタイムに測定することで初めて分子の結合の過程や再組織化といった構造の変化を追跡することが可能で、更に各変化を分子レベルで測定するためには、ナノスケールで変化を捉える技術も必要になってきます。散逸モニタリング機能を併せ持つ、水晶振動子マイクロバランス法(QCM-D)はそのような技術の1つであり、研究者に解を与えることができます。QCM-Dは、共振周波数(f)とエネルギー散逸(D)という2つのパラメータの変化を測定し、この2つのパラメータから、表面の質量や厚さの変化を抽出することができます。一般的に、水晶振動子表面の質量が増加すると、fは減少に転じます。またDは、膜の柔らかさを示します。質量が減れば、かえって周波数は上がりますが、柔らかいソフトな膜ほどDは大きくなります。また、膜がソフトな状態から硬い状態になると、今度はDは小さくなります。


QCM-Dによる実際の測定例~ナノグラムの天秤でナノスケールの質量変化を捕捉


では具体的に実例をみてみましょう。この鋭敏な界面相互作用の感知技術を用いて一般的に研究される分子の対象としては、脂質、タンパク質、DNA、ポリマー、界面活性剤、ナノ粒子などがありますので、これらの分子の測定例を用いて実際にQCM-Dを用いた質量測定の様子を説明することに致します。


ここではその1つの例として、ビオチンの結合についての測定方法について触れたいと思います。ビオチン結合の相互作用の過程においては、特に試料として投入された抗ビオチン抗体分子が、表面に形成されたビオチン化脂質二重層に最初に結合するタイミングを知ることが重要とされています。また、この抗体が酵素によって切断されることを確かめることも重要な研究テーマです。


図1に示すように、この測定で用意した水晶振動子センサーの表面にはビオチンタグ付きの担持脂質二重層が形成されています(※いわば前処理のプロセスに該当し、当ブログ内では詳細を割愛しております)。これが基準表面となるステップIです。

次に、抗体溶液を導入し、形成二重層が形成されているセンサー表面を満たします(ステップII)。この抗体溶液の送液により、抗体はビオチンに結合していきます。送液を続けて飽和状態になるまで抗体を表面に結合させ、計算により1100ng/cm2の質量が表面に取り込まれたことが分かりました。

次に、IdeSと呼ばれる酵素試料をステップIIIで新たに導入します。この酵素には抗ビオチン抗体分子を切断する作用があるので、試料導入後は取り込んだ質量の減少が予想されます。そして正にこの予想通り、図1に示す通り、酵素導入後、質量密度は30%程減少していることがわかります。これは、分子の1/3が切断されたという事実を示すものです。

この測定結果により、界面間に起きている質量変化をQCM-Dでモニターすることで、抗体の結合作用と酵素による切断作用の双方のプロセスが検出できることが分りました。またこの測定全体を俯瞰することで、単に分子間相互作用のプロセスのみならず、表面での抗体分子の方向性や酵素の機能性についても検証できることが分かりました。


図1. 抗体が表面のビオチン化脂質二重層に結合すると質量が増加し(I-II)、続いて酵素が切断されると(III)、表面の質量の1/3が除去されます


※測定に関する詳細資料やお問合せ等については、本サイトのお問合わせページよりご連絡頂ければ幸いです。またBiolin Scientific社のホームページ等も御覧下さい。


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