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Dissipationとは何か? 改めて解説!

水晶振動子マイクロバランス法、いわゆるQCM法についての議論になると、しばしばDissipation(=日本語では「散逸」や「減衰」と訳されている)、という概念が説明として用いられています。ここでは、これらの概念が何を意味するのか、また、如何にQCM法の測定にとって重要な要素となっているのかについて改めて数式と図を用いて概説致します。


Dissipationとは ~ダンピングとエネルギー損失

Dissipation、つまり「散逸」または「エネルギー散逸」という用語は、より正確には、測定対象のシステムの被測定物から失われるエネルギーのことを意味しています。Dissipationを用いたQCM、つまりQCM-Dとは高調波(倍音)を形成する振動子(harmonic oscillator)であり、すべての現実世界の振動システム(例えば楽器等)と同じ様に発生させた振動はやがて減衰する様設計されています。

例えば外的な力によって強制的且つ継続的に振動させられていない振動子の発する振動は、ピークに到達した後は次第に低い振幅で振動するようになり(=減衰)、最終的にはその振動は消滅します。この振動振幅の減衰は、振動子自体の内部摩擦や、周囲の媒体(空気、水など)との摩擦から発生する損失に起因しています。この摩擦によって振動エネルギーが熱として拡散放出される現象、つまり振動エネルギーの損失こそが、QCM-D法においていわゆるDissipationと呼ばれる測定原理に応用されているものの正体なのです。


Dissipationには、物質に関する情報が含まれている!

QCM-D法による実際の測定においては、Dissipation、つまりエネルギー損失は、主に振動する水晶振動子センサーの表面に接触するすべての物質に起因し、誘発されます。このエネルギーの損失現象は、センサー表面に空気ではなくバルクの液体が存在し接触している場合により強くなり、更に硬い材料よりも、例えば生体分子やポリマーなどの軟材料の膜、つまりソフトフィルムが表面に形成されている様な場合においては特に顕著に現れるため、センサーに接触する媒体・物質を判定するための重要な情報として用いられています。


ソフトフィルムと硬い膜の比較

実際の振動時には、センサー表面に接触している液体やソフトフィルム(Fig.1 A)は、伝播した振動によってその形が変形させられることにより、振動のエネルギー損失を発生させています。一方、センサー表面が真空あるいは空気と接触している場合は、誘発されるエネルギー損失は比較的小さくなります。センサー表面に接触している膜が薄くて硬い材料(例えば金属薄膜)であった場合も同様に損失は小さくなります(Fig.1 B)。金属薄膜等は振動伝播時に変形しないため、厚い軟材料等に比べて損失が小さくなるからです。その結果、損失が大きいということは、表面に接触している材料が柔らかい、つまり粘弾性があることを示し、損失が小さいということは、表面の材料が硬く、振動に追従していることを示すことになるのです。


Fig.1 QCM-Dセンサーの表面にある、振動エネルギー損失の量が異なる2つの材料膜を表した模式図。A)は水和した柔らかい粘弾性を持つ膜のためエネルギー損失が大きくなり、B)は薄くて硬い材料で形成されるため、エネルギー損失が小さくなる


DissipationとQファクターとの関係

振動子の特性を表す重要なパラメータに、Qファクター(Quality Factor)があります。これは共振時の振動の減衰を表す無次元パラメータで、蓄えられたエネルギー量と失われたエネルギー量を関連付けるものです。Dissipation(D)とは、Qファクターの逆数であり、1回の発振サイクルにおける振動システム上のすべてのエネルギー損失の合計を示すものです。これはまた、1回の発振で散逸したエネルギーを、システムに蓄積された総エネルギーで割ったものと定義することもできます。


式1から結論付けられるように、Qファクターが高いと、エネルギー損失が小さく、振動が長時間持続することを示し、その逆もまた然りです(Fig.2)。



Fig.2 チューニングフォーク(楽器として用いられる音叉のこと、左)に振動を与えると散逸が少なく、振動は長期間継続する。これに対しゼリーの場合、エネルギー散逸が大きくなり、振動が早く消滅することがわかる。


まとめ

水晶振動子マイクロバランス法(QCM-D)の原理に関する説明でよく出てくるDissipationという概念は、研究対象となる測定材料に起因する振動の減衰、すなわち振動子であるQCMセンサーから失われるエネルギーを意味しています。エネルギー損失は、主に振動するセンサー表面に接触している物質に起因するため、実際の測定対象となる材料を判定するための重要な情報源となっています。QCM-D法を応用した測定システムであるBiolin Scientific社製のQSenseでは、研究対象となる材料の特性を、測定したDissipationの挙動と値から分析することで明らかにし、膜材料の設計や改善のための指標を示すツールとして皆様の研究に貢献致します。



編集者注:この記事は2018年6月に初めてBiolin Scientific社のウェブサイトに掲載されたものであり、2021年7月に最終更新されたものです。



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