QCM-DでCMPの後工程を管理する

シリコンウェハの表面加工プロセスを望ましい結果に導くためには、清浄度を維持することが鍵になりますが、そのためには不純物の付着を抑制し管理することが非常に重要な要素となります。ここでは、様々な条件での汚染物質の吸着・脱着を分析し、CMP後の洗浄剤の効率を評価・比較するために、QSense技術がどのように利用できるかを紹介します。

QCM-D技術とCMP工程への応用

Biolin Scientific社製のQSenseは、表面変化への感度が非常に高いことで、ナノスケールにおける分子と表面の相互作用をリアルタイムに感知可能で、且つ形成膜の構造特性についても分析可能な技術である、QCM-D（Quartz Crystal Microbalance with dissipation monitoring）をベースにしています。水晶振動子の共振周波数fと散逸量であるDの変化をモニターすることで、表面の相互作用や形成層の特性を質量、厚さ、粘弾性特性の観点から特性評価し、定量化測定することが可能になっております。

QCM-Dによって得られた情報を応用すれば、例えば、分子の吸脱着、表面のエッチング、クリーニング等の各プロセスの成否についての分析が可能になります。

洗浄効果を分析可能という点で、QCM-Dは例えば以下の様な工程への応用に適しているといえます

・CMP工程後の洗浄剤による残留物の除去効果成否についての検証

・除去率の測定（除去効果の定量化）

・洗浄工程の定量化（対象表面からの除去量、または表面に残留した量を測定）

・異なる洗浄剤の洗浄効率の比較

・洗浄剤の最適な濃度の特定

QCM-Dの技術はCMP工程の基礎研究開発にも応用されています。例えばWuらの研究ではQCM-Dを用いて汚染物質の吸着と脱着挙動を調べ、10nm以降のテクノロジーノードに適した化学物質やプロセスの開発に役立つ知見が得られました。

この研究で使用したモデルシステムは、バリアーCMPスラリーやCMP後の洗浄剤に使用される銅の腐食防止剤であるベンゾトリアゾール（BTA）を銅に吸着させました。そして、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド（TMAH）およびアセトヒドロキサム酸（AHA）ベースの溶液を用いて、BTAの除去を分析しました。​​​​​​​

QCM-Dを用いた添加剤の層の堆積と除去過程の分析例 

下記に紹介する分析の実例では、2種類の洗浄剤を用いてスラリー状の添加剤の除去効果を分析しており、除去率と除去された総量を測定することで比較しています。表面の化学状態と溶媒の条件は同一にした上で、以下の要領で比較実験を実施しました（図1）。

まず、基準となるベースラインを確立するために、2つの対象表面に対し溶剤を送液し晒します。次に、これらの表面に作用し吸着するスラリー状の添加剤を接液させ、QCM-Dを用いて、固/液界面間における添加剤の吸着量（uptake=質量取り込み量）をモニターします。吸着が飽和状態に達すると、バルク溶液に残っている添加剤を除去するため洗浄剤を投入してリンスのステップに移行します。

リンス工程では2種類の異なる洗浄剤を送液して表面との相互作用を比較します。この除去プロセスもQCM-Dを用いてモニターすることができます。具体的には洗浄剤を構成する試料分子が、表面に残留する添加剤層とどのように相互作用し、どのように残留層が除去されていくかについて、リアルタイムで挙動を追跡することができます。

そして、添加剤残留物の除去率と総除去量をQCM-Dから得られた２つの測定値で検証比較し、どちらの洗浄剤が効果的であったかを明らかにすることができます。この図1に示す模式例では、グラフにおける相互作用のカーブの傾きと飽和点からの差分＝除去量（質量損失の総量）で示される様に、A)の洗浄剤の方が、B)の洗浄剤よりも速く反応し、かつ効率的に残留物を除去できることがわかりました。

図1. QCM-Dを用いた、CMP後工程における、異なる洗浄剤による残留物除去プロセスの違いを比較した分析例（※模式図につき縮尺表示はありません）

おわりに

QCM-Dによる分析を用いれば、リアルタイムで固/液界面における表面-分子間の相互作用に関する情報を数値によって得ることが可能で、これをCMP工程に応用すれば上記例に示す様にCMP工程後の洗浄方法の効率性について分析・比較し、且つ表面残留物を除去するための最適な方法を検討するために役立ちます。

参考文献

Wu B, and Raghavan S., ECS Journal of Solid State Science and Technology, 8 (5) P3114-P3117 (2019)