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ナノ粒子の世界をQCM-Dで解明する

私たちの身の回りにはナノ粒子の添加・吸着等の加工技術を応用した製品が年々増え続けています。例えば日焼け止め、スポーツウェア、塗料、コーティング、医薬品等はナノ粒子の技術が応用された製品として既にお馴染みだと思います。これらナノ粒子を用いた技術の製品への応用は、私たちの生活を豊かにする一方で、ナノレベルの物質が人間と周囲環境に直接曝露・作用して有害な影響を及ぼすといった危険性も同時に孕んでいます。ナノ粒子の持つ潜在的な悪影響を回避するには、ナノ粒子が周囲環境や生体とどのように相互作用をしているのかを正しく解明し知ることが必要です。本記事ではさまざまな表面とのナノ粒子との相互作用を分析する方法について御示し致します。


目次[非表示]

  1. 1.ナノ粒子の相互作用を解明する
  2. 2.QCM-Dで明らかになるナノ粒子の世界
  3. 3.QCM-Dによるナノ粒子相互作用の測定実例
    1. 3.1.修飾シリカ表面へのフラーレンナノ粒子の堆積の関係
    2. 3.2.ナノ粒子のスクリーニング評価(タンパク質との相互作用)
  4. 4.QCM-Dを新たなナノ粒子評価の物差しに

ナノ粒子の相互作用を解明する

ナノ粒子と表面材料との相互作用は非常に速く、この反応を正確に分析する1つの有効な手段としては、表面に対して感度の高いセンシング技術を用いることが挙げられます。QCM-Dはまさにこの目的に適った技術と言え、測定データを変換することで対象表面の時間軸に対する質量変化または損失変化の情報を数値化して得ることが可能で、加えて形成された吸着膜の物理的な特性に関する情報が得られることも特長となっています。これらの各種情報を統合して分析することで、ナノ材料と対象となる固体表面間の相互作用に関するこれまで不明だった多くの新事実を明らかにしていくことになるのです。

     

QCM-Dで明らかになるナノ粒子の世界

QCM-Dによるナノ粒子相互作用の模倣試験においては、反応するナノ粒子試料の条件、固体表面の材料組成、液中の溶媒条件(pH、塩濃度、温度)等の各種条件を変えて各々の場合における測定データの変化を観察することで、対象となる特定ナノ粒子の分子間相互作用への影響を正確に評価することが可能です。この特長によって、QCM-Dはナノ粒子を用いた様々な応用分野においてナノ粒子の持つ相互作用の検証実験に用いることを可能としております。例えば、ナノ粒子と細胞膜の相互作用を検証することで、ナノ粒子を応用した薬物分子やナノ粒子の毒性についてのスクリーニングを研究できます。また、例えばセンサー表面の脂質膜など生体模倣膜との相互作用を調べることで、作成したナノ粒子と生体との適合性・親和性を評価する手段としても使うことが可能です。あるいはガラスまたは樹脂材料の表面とナノ粒子との親和性(吸着強度)が明らかになれば、水または空気からのナノ粒子除去プロセスになぞらえてフィルタリング効果の実証評価をしたり、あるいはナノ粒子によるファウリング誘発の影響有無や、その抑止方法の検証などを具体的に調べるといったことが可能になります。

QCM-Dによるナノ粒子相互作用の測定実例

以下でナノ粒子と表面の相互作用をQCM-Dで評価する具体的な方法例を詳述します。

修飾シリカ表面へのフラーレンナノ粒子の堆積の関係

ここでは、塩濃度と堆積速度の関係を明らかにしています[1]。この実験においてはシリカ表面を様々な塩濃度(pH 5.2で1、10、及び30 mM NaCl)のフラーレンナノ粒子に晒しています。1mM NaClで正に帯電したポリ-L-リジン(PLL)でコーティングしたシリカ表面とのナノ粒子の相互作用も測定しました。 QCM-Dによるデータ(図1)は、電解質濃度の増加に伴って堆積速度が増加することを示しており[1]、堆積速度は1 mM塩濃度の場合に最も高くなることが判明しました。

図1. QCM-Dで測定した、異なる塩(NaCl)濃度でのシリカ表面へのフラーレンナノ粒子の堆積速度。負の方向への周波数シフトは表面における質量(堆積量)の増加を意味し、PLL表面を用いて1 mMの塩濃度の時に最も速い挙動が観察されました。

ナノ粒子のスクリーニング評価(タンパク質との相互作用)

ここでは、生体内のタンパク質を模倣した表面としてムチンを金(Au)表面に修飾したセンサーを使い、試料として送液供給したナノ粒子との相互作用を調べました。まず図2の左端の挙動より、糖タンパク質を導入した直後からムチンが金表面に急速に吸着し、膜層が形成されていることが分かります。その後ムチン層を2種類の異なるナノ粒子(PEGでコーティングした量子ドット)の試料に晒すと、f値は共通して下がるため質量は増加するものの、D値の挙動の違いより粘弾性は異なることが示唆されております。これらの結果から、ムチン膜の持つナノ粒子に対する保護効果が判明したものと考えております。



QCM-Dを新たなナノ粒子評価の物差しに

現在、ナノ粒子材料の開発現場においては、材料サイズをナノスケールに適合させるためより縮小化していくことがトレンドになっておりますが、このサイズの縮小化傾向によってこれまで予期しなかった様な未知の材料特性が顕在化し、解決すべき新たな課題として研究者達を日々悩ませています。ナノ粒子化は対象材料のサイズを小さくすることで表面積に対する体積アスペクト比を増加させ、バルク状態における表面原子よりも反応性を高めることで、様々な利点を享受できる非常に有望な技術ではありますが、その一方でナノ粒子における物理的・化学的な表面特性はバルク状態からは変化・乖離してしまっており、従来のバルクを対象とした評価手段はナノ材料の評価には適しているとは言えず、毒性など様々な特性評価において未知の部分を残しているのが実情です。すなわち材料のナノサイズにおける特性はバルクとは別に正しく測定・比較評価する必要があり、そのための物差しが新たに必要になるということです。

私達はナノ粒子と固体表面の相互作用を分析する方法として各所で成果の出ておりますQCM-Dを応用することが、これらの課題に対して解を与える有効な手段として研究者の方々にお役立て頂けるものと信じております。


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