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QCM-Dを用いて生体分子の吸着作用を評価する

生体分子の固体表面への吸着挙動を分析することは、バイオエンジニアリングや医薬など、多くの関連応用分野で必要な研究の1つとして位置づけられています。ここでは、実際にQCM-Dを使用した生体分子の吸着と脱着の動的な挙動の解析、および対象の表面からの吸着または脱着の量を算出する方法について解説していきます。


目次[非表示]

  1. 1.生体分子と表面の相互作用
  2. 2.QCM-Dで生体分子の吸着をリアルタイムに分析
  3. 3.吸着した生体分子膜の構造特性を分析
  4. 4.QCM-Dの生体分野への応用

生体分子と表面の相互作用

生体分子と表面との相互作用現象の結果としてもたらされる生体分子の表面吸着は身近な状況においても数多く見ることができ、それぞれ大きく影響を与えています。例えば、医療用インプラントを体内に挿入する場合を考えてみましょう。この場合、インプラントの統合が成功するためには、先ず体内の生体分子がインプラントに対して親和性を持ち、設計通り吸着する必要があります。これとは反対に、生体分子の固体表面への吸着が負の影響を与える例もあります。例えば海洋に晒される固体表面を考えてみましょう。海中に存在する建造物や船体などの金属表面は、常にさまざまな海洋生物にさらされ生物の持つ生体分子と相互作用しています。その結果、望まざる生体分子が付着し、さらには増殖拡大した付着生物のコロニー化が形成されることで、例えば船体の航行等を妨げる要因となってしまう可能性があります。

いずれの場合においても、対象の固体表面との生体分子の相互作用と吸着を特徴付けて理解し、表面特性を最適化すれば生体分子の吸着を任意に制御することができます。その生体分子の吸着挙動の分析が可能なツールがQCM-D法を応用した、Biolin Scientific社のQSenseシリーズなのです。


QCM-Dで生体分子の吸着をリアルタイムに分析

QCM-Dは、生体分子と表面との吸着脱離といった相互作用を試料分子の標識化が必要のないラベルフリーな分析が可能で、ナノスケールの空間内に作成した模擬表面に対して非常に鋭敏な感度を誇るセンシング技術です。時間軸における表面の質量変化をモニタリングすることで、固体表面への生体分子の吸着と脱離の様子をリアルタイムで観察が可能になっています(図1)。またこのときそれぞれの反応挙動を数値で追跡測定することにより、吸着量と速度について定量評価を実施することも可能です。

     

[図1] 表面への吸着(A)と脱離(B)の概略(上)、QCM-DによるΔ f及びΔ Dのグラフ(中央)、Δf、ΔDを質量変化に変換したデータ(下)。灰色の矢印で示した通り、時間軸に対する、表面への吸着・脱離反応を数値で可視化できるため、実際の反応量と速度について定量的に追跡・評価することが可能になります。

吸着した生体分子膜の構造特性を分析

QCM-Dは、単に表面における質量変化(Δf)を検出するだけでなく、ΔDの測定と解析により吸着した分子膜の構造的・機械的な特性を数値化して分析することも可能です。これにより吸着した生体分子の配置や構造を知る手がかりが得られます。たとえば、吸着膜が緻密な構造をしているか、それとも緩く結合しているか?生体分子は崩壊しながら積み重なった膜を形成しているのか、それとも表面から鎖が伸張し活動状態にある(崩壊せず生きている)のか?膜の密度は、吸着プロセス全体を通して同じ傾向なのか、それとも、たとえば被覆率や、材料特性、温度、塩濃度、pHなどの他の要因に依存し変わっていくのか?…こういった情報を分析で得られる点がまさにQCM-Dの付加価値となっているのです。


       


QCM-Dの生体分野への応用

生体分子と固体表面との相互作用(吸着と脱離)は色々な研究応用分野において極めて重要な役割を担っています。例えば生体適合性材料の設計、再生医療、バイオセンサーの開発、薬品保存容器や注射シリンジ等の各表面と薬物分子との相互作用の評価等です。他にも様々な分野において、以下の様な生体分子膜の吸着特性を理解し評価するために使用できるツールとしてQCM-Dは日々応用されております。

生体分子(タンパク質等)と固体表面との吸着反応の追跡・観察

生体分子の表面への吸着効率と総吸着量の評価

吸着膜の密度と粘弾性を測定、構造(緻密性)を評価

溶媒条件を変えて生体分子の任意の表面に対する吸着性を評価

生体分子の吸着を妨げている条件を探索し特定

生体分子の吸着を制御(促進または抑制)するため、表面の材料組成または溶液の溶媒条件について最適な条件を探索


それぞれの応用実例(アプリケーションノート)や、既存のQCM-D装置を使った実験方法といった個別のご相談・質問については、本サイトのお問合せ先より弊社までご連絡頂ければ幸いです。


原典: Adsorption of biomolecules to surfaces – how to characterize with QCM-D


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