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ウイルス感染拡大に表面科学の力で対抗する ~QCM-Dユーザーとウイルスとの戦い~


目次[非表示]

  1. 1.QCM-Dでウイルスに対抗する
  2. 2.感染症と戦うための新しい治療方法
  3. 3.エンベロープを模擬した表面モデルの構築とQCM-Dの応用
  4. 4.ウイルスの不活性化に関する有望な結果

QCM-Dでウイルスに対抗する

ジカ熱、デング熱といった感染症は、いわゆるエンベロープ型、つまり脂質膜で外側を囲まれたウイルスを介して広がることが分かっており、COVID-19もこのウイルスのカテゴリーに入ります。Biolin Scientific社製QCM-D装置ユーザーの1人であるシンガポール・ナンヤン工科大学のナムジュン・チョ教授の研究室では、ウイルスに対抗し疾患を解決するためにQCM-Dを含む表面科学の知識を駆使して日々研究を続けており、既にジカウイルスの治療においては有望な結果を出しています。私たちは彼の率いるチームの研究について学ぶため、直接チョ教授に話を聞きました。


感染症と戦うための新しい治療方法

「エボラ出血熱、デング熱、ジカ熱などのウイルスの発生は再発しており、今後も再発する可能性は高い」とナムジュン・チョ教授は言います。「だからこそ、これは重要な仕事だと思っている」とも。

チョ教授と彼の研究チームは、表面科学の観点から地球人類の健康を脅かす大きな課題に取り組んでいます。彼らは自らの研究を抗ウイルス戦略の1つとして位置づけており、例えば感染症に対する新しい治療方法を生み出すことが主な目標となっています。

エンベロープを模擬した表面モデルの構築とQCM-Dの応用

チョ教授は、「フラビウイルスなどの多くのウイルスには脂質エンベロープが含まれている」と述べています。脂質エンベロープとは、これらのウイルスの外側を形成している壁の一種です。

ウイルスはエンベロープに包まれているものとエンベロープに包まれていないものがあります。エンベロープウイルスとして分類されるウイルスの中には、前述したフラビウイルス(蚊を媒介とする)等があり、ウイルスにより引き起こされる感染症の例として、ジカ熱、デング熱、TBE、黄熱等があります。冒頭で述べたとおり、エンベロープ型には上記に加え、昨今よく知られることになったSARS、MERS、Covid-19などのコロナウイルスも含まれます。

「まず、問題が何かを定義し、次に、問題を解決する手段を探索するため表面反応モデルをベースにした(解決のための)プラットフォームを設計する」と、 チョ教授は言います。

チョ教授のチームでは、実際の反応シナリオを模擬的に表すためモデルシステムを使用しています。たとえば、ジカ熱のプロジェクトでは、ウイルスエンベロープを表すモデルシステムをセンサー上に設計しました。モデルシステム、いわゆるリポソームをベースとしたウイルスエンベロープの模倣物が様々な分子材料とどのように相互作用するかを調べるために用いられています。

言うまでもなくエンベロープ型のウイルスに共通する特徴はこの外郭膜であるエンベロープそのものです。このウイルス外郭膜を標的とし、破壊することができる抗ウイルス対策を確立できれば、ジカだけでなく、他のエンベロープウイルスに対しても機能する有効な治療法となります。

ウイルスの不活性化に関する有望な結果

「私たちはペプチドが脂質エンベロープの湾曲部分を感知することで、100nmまたは120nm未満のサイズのウイルスを選択的に溶解できることに気づきました」、とチョ教授は言います。

ジカウイルスの研究プロジェクトにおいて、チョ教授のチームは彼らの設計したペプチドがウイルスエンベロープ模倣物の破壊が可能なことを発見し、この概念モデルを「LEAD(Lipid Envelope Antiviral Disruption、脂質エンベロープの抗ウイルス的破壊作用)」と呼んでいます。チョ教授はこの概念を説明するイメージとして「風船を刺す」といった比喩を用いています。この概念の狙い通り実際のウイルスにおいてエンベロープの破壊(破裂)を引き起こすことができれば、ウイルスは不活性化され、感染した患者のウイルス量を減少させることができます。

設計したペプチドは、直径〜120 nm未満の脂質エンベロープに選択的に作用します。つまり、ジカウイルスに加えて、デング熱、黄熱病、C型肝炎など、エンベロープのサイズが類似する他のウイルスに対しても効果的な治療に応用できる可能性があります。


詳細はBiolin Scientific社ウェブサイトの原文ブログ記事およびPodcastを参照下さい。


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