QCM-Dを活用する~洗浄の「見える化」
QCM-Dで洗浄プロセスを「見える化」する
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これまでQCM-Dの原理や、QCM-Dを応用して洗浄の効果を数値化し評価する方法について解説させて頂きましたが、さて、ここで更にもう1段階深いレベルでQCM-Dを活用して洗浄のプロセスを科学して数値などによって可視化、つまり「見える化」することはできないでしょうか?
前回のブログでは金属センサーの表面の上に載っている汚れ膜に対する吸着挙動とその脱離反応について述べてきましたが、ここから先は汚れのついていない無垢の金属表面に対する洗剤の吸着・脱離反応を事例に挙げて説明致します。
洗浄による表面の腐食とエッチング効果
洗浄のプロセスにおいてシンプルな洗浄力の評価と同様に重要になるのは洗浄する対象となる金属表面(ガラス等)のいわゆる腐食とかエッチング効果などと呼ばれる状態についての評価です。洗浄は何度も繰り返し行うと表面に腐食作用を進行させ、結果として表面が溶解・粗面化された状態、いわゆるエッチング効果が発生致します。従来このような腐食やエッチング効果の度合いを知る試験方法としては、単に洗浄サイクルを繰り返し実施した上で、対象表面に対して目視等の視覚的な検査をするくらいしか手段がありませんでした。また特にエッチング効果について評価するとなると、平均で約70回程度は洗浄サイクルの繰り返し実施作業が必要とされ、時間とコストがかかりすぎていたため、より効率的な試験方法が求められていました。
そこで我々はQCM-Dを活用し、腐食とエッチング効果を模擬センサー表面上での界面活性剤の反応挙動からシミュレーションする方法をご提案致します。QCM-DのΔfとΔDを追跡することで、これまで見えなかった腐食の進行過程とエッチング効果が具体的な数値によって明らかになり、より効率的で定量的な試験評価を実施することが可能になるのです。また腐食の開始点や進行速度など、これまで分からなかった中間プロセスを「見える化」するという点で、非常に画期的であるともいえます。
QCM-Dで市販の洗剤を評価してみると?~洗浄効果を数値化する
ここで我々がご紹介するQCM-Dを活用するエッチング効果の評価試験方法と試験例を簡易的に述べます。QCM-Dにおいては装置内で単一の洗浄サイクルのみ実施の上、数値変化を継続的に追跡監視すればよいだけなので、これまでの様に洗浄サイクルを繰り返し実施するといった手間は不要です。また試験に要する時間は1時間もかかりません。
市販の洗剤Aと洗剤Bを用意しましたので、同じソーダライムガラス表面に対するエッチング効果に違いがあるか比較してみましょう。使用装置は最上位機種であるQSense Proを選択、25℃と40℃の各温度条件においてスウェーデンにおける一般的な水道水をコントロール溶媒に用いた50分間のランニング試験を実施しました。50分のうち、30分は洗浄に、残り20分はすすぎ(rinse)となる様なプログラムを組んでいます。
試験後、洗剤露出中におけるエッチングレートを抽出、試験中の表面層の厚みの減少(nm)を計算することで、平均表面除去量=エッチング効果とみなして洗剤Aと洗剤Bの違いを比較しました。結果、洗剤Aについては洗剤Bより高いエッチング効果があることが分かり、且ついずれの洗剤においても25℃よりも40℃の方がエッチング効果は高くなりました。また洗剤を投入せずコントロール溶媒である水のみを流した場合、25℃、40℃のいずれにおいても表面除去量はゼロという結果を得ました。この結果から単純に判断すると、少なくとも洗剤Aより洗剤Bの方が表面へのエッチング効果を抑えることが可能なため、品質が良いと判定できます。
Figure 1. Etching results for two commercial detergents, detergent A and detergent B, evaluated at two different temperatures, 25°C and 40°C, using QSense technology
QCM-Dの「見える化」で洗浄評価の業界スタンダードに
このようにQCM-Dはこれまで不明だった洗浄力、洗浄のプロセス、表面の腐食やエッチング効果といった特性を数値によって「見える化」し、且つより効率的な試験手段として様々な研究現場において皆様の日々の業務を支援するツールとしてお使い頂くことが可能になっております。またグローバル規模で多くの文献実績を持つことから、デファクト・スタンダードな洗浄評価ソリューションとして業界において地位を確立しつつあります。